ドクターインタビュー01

「いい受精卵がしっかりとできること」が最終的な目標ドクターインタビュー

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「いい受精卵がしっかりとできること」が
最終的な目標

はらメディカルクリニック

院長

宮﨑 薫 先生

長年不妊治療に携わるなかで、運動精子の数に問題がなくても、なぜか妊娠に至らないケースを何度も経験しています。原因を追求する上で精子の質に着目し、2020年からDFI検査を導入しました。

DFI値は、良好な胚盤胞の獲得率、そして移植後の着床率や流産率にも影響するとされます。つまり、DFI値の良くない人を洗い出し、それを改善することが妊娠率の向上につながると考えたのです。

運動精子の数が少ない方は検査結果も良くないだろうと予想していましたが、実際にDFI検査を導入したところ、運動精子の数に問題ない方でも検査結果が良くないケースがありました。

当院の治療は体外受精がメインなので、胚移植したあとに高い妊娠率が期待できる「いい受精卵がしっかりとできること」が最終的な目標になります。実際、体外受精がうまくいかなかった方には、DFI値を意識した治療を行うことで、いい受精卵が高い確率で育つようになったと感じています。

DFI検査の評価で精子DNA断片化率が10%以上の場合は、サプリメントや生活習慣を見直して精子の状態を改善する試みを提案します。具体的には禁煙や十分な睡眠、食生活や運動の習慣、精巣を熱にさらさない工夫です。

なかなか妊娠しないと女性側の問題と思われがちですが、不妊症の原因は女性側と男性側が同じくらいの割合です。男性側はDFI検査を活用して、原因がないか細かくみていくことが妊娠の近道になるでしょう。

精子が作られるまで約3カ月かかるので、生活習慣を変えたりサプリメントを飲んだりして、3カ月後に再検査をすることもあります。数値が良くなる方もいますが、変わらない方もいます。その場合には、ほかのトラブルの可能性がないか、男性不妊外来で詳しく相談できます。

はらメディカルクリニック 院長 宮﨑薫先生

はらメディカルクリニック
院長 宮﨑薫先生 ご経歴

2004年
慶應義塾大学医学部卒業
2013年
慶應義塾大学大学院医学研究科修了
2013年4月
東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教
2014年4月
慶應義塾大学産婦人科助教
2017年10月
ノースウェスタン大学産婦人科
(米国シカゴ)研究助教授
2018年10月
荻窪病院産婦人科勤務
2020年5月
医療法人社団暁慶会
はらメディカルクリニック 院長就任

DFI検査で目に見えない情報がわかり、受精後の培養成績が向上しています

胚培養士

荒井 勇輝さん

DFI検査の導入により、変わったことは大きく二つあります。

一つは、通常の精液検査では精子の運動率など「目で見てわかる情報」しかなかったのが、DFI検査により「DNAの損傷率」という「目に見えない情報」を得られるようになったことです。DNAに傷がついた精子が受精すると妊娠率は下がると考えられます。ですから、DNAに傷がない精子が1個でも増えたほうがいいのです。こうした精子の詳しい状態がわかることは、医療にとっても患者さんにとっても大きなメリットです。

もう一つは、DFI検査の結果、数値が悪かった場合にはそれを改善できる可能性があるということ。生活習慣の見直しや還元型コエンザイムQ10などの抗酸化サプリメントを、患者さんに提案することが可能です。

当院では初診の方の精液検査を必須としています。DFI検査はオプションですが、不妊検査は初めてという方も含めて、約7割の方がDFI検査を選択されます。

DFI検査の結果は、良好が4割、ボーダーラインが3割、良くないが3割程度です。年齢が高いとDFI値は高く、精液検査の所見が悪いとDFI値は高いという結果は想定の範囲でした。また、精子濃度が高いけれどDFI値が高いケースは、数は多くないものの、やはり一定数あります。

治療成績との関係ですが、体外受精・顕微授精での受精後の培養成績は顕著に向上しました。

精子ができるまでには約3カ月かかるので、その間に体質改善を最低2カ月、続けていただくのがベターです。再検査をしてDFI値が下がったとしても、正直、患者さんにはその実感はないと思います。しかし、2〜3カ月後に採卵されると培養成績の改善を感じることが多いのです。この場合、男性だけでなく、ご夫婦そろって体質改善を試みているケースもあります。

精子の状態が悪い場合、改善しても顕微授精から体外受精、また体外受精から人工授精ができる精液所見まで、精子濃度を上げるのは現実的には難しいでしょう。ですから、数を増やすよりも「精子の質を良くする」ことが大事です。数が少なくても、顕微授精でいい精子を選ぶことができれば妊娠につながりやすいのです。

今までは精子濃度に問題がないので「大丈夫そうですね」としていた方に、体質改善などをアドバイスしやすくなったこともメリットの一つです。患者さんにお話しする際には、DFI検査の結果だけでなく、全体的に改善できることがあれば、あわせてお伝えしています。妊娠というゴールに向けて、二人で進んでいけるような働きかけを心がけています。

監修

獨協医科大学埼玉医療センター
獨協医科大学医学部特任教授

岡田 弘 先生